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冷泉工房は染色作家、光永正美さんの主催する工房ですが、光永さんの雅号、「鴻皇(こうおう)」からつけられた工房名、「鴻皇」の方が一般的には知られています。
工房が中京区冷泉町にあったことから「冷泉工房」とも呼ばれていますが、これは光永さんを慕(した)って集まった、お弟子さんや若手作家の技術の研鑚(けんさん)と情報交換の場として名づけられた工房名です。
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光永鴻皇さんの作品の特徴は、繊細で優美な糸目友禅の彩色(挿友禅・さしゆうぜん)にありますが、特に魅了されるのが立体的で美しい胡粉(ごふん)ぼかし、「挿胡粉ぼかし」です。
万物に生命が宿るように、友禅で描かれた草花にも時の経過が描かれます。
時の経過というのは、生物の成長の度合いを表すとともに、光の陰影が時と共に変化することも意味します。
例えば、新芽の新しい枝と古い枝の色はおのずと異なり、また描かれる時間によって異なる光の陰影が加わります。
このように、彩りを時の流れで捉えていくことにより、立体感が生まれ、生き生きとした表現が可能になります。
胡粉・・・カキ殻などを用いて粉末にしたもので、白色を描く顔料。光永さんは日本画に使う蛤(はまぐり)胡粉などを使用しています。 |
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光永鴻皇さんの作品 色留袖上前部分

訪問着 上前部分
挿友禅の挿は挿込むように彩色することで、塗るとは異なります。 |
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訪問着 上前部分 |
光永さんは当初、日本画を学び、その後独立して、染色の道に入られましたが、日本画の素養を基に、京友禅のあらゆる技法に精通する卓越した京友禅の伝承者です。
実際、会って話しをしてみると、京都の伝統や文化だけではなく、多方面にわたる幅広い知識に驚かされます。
確かな技術と知識に裏付けられた作品が少なくなっている現在、光永さんこそ京友禅の伝統と良さを伝えられる数少ない染色作家の一人であると思います。
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美しい胡粉ぼかしが描かれる背景には、「色の原点としての白」への特別の思いがあります。 |
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